手からビーム【第一回】
僕には取り柄が無かった。何をやっても人並みかそれ以下だった。もちろん、自分には何か才能があるはずだと信じて、それなりに自分探しもやってみたが、今にして思えばこの発想も人並みだった。最近では30年近く生きてきて見つからないのだから、おそらくこの先も見つかる可能性は低いだろうと見積もるようになった。それでも何かが得意だとか、これだけは誰にも負けないとか、どんなにくだらないものであろうとそういうものを持っている人が羨ましかった。
過去形になっているのには、ちょっと込み入った事情がある。今の僕は、まあ「取り柄」と呼んでも差し支えのないものを手に入れてしまったからだ。本来喜ぶべきことなのかもしれないが、僕は戸惑っている。僕が人並みの頭で考えた「取り柄」とは、あまりにかけ離れているからだと思う。
始まりは突然だった。あの日の夜遅く、いつものようにコンビニでのアルバイトを終えた帰りに、僕は家の近くのブロック塀の上に空のペットボトルが置かれているのを見つけた。僕はこの手のポイ捨てが嫌いだ。道路の脇に転がっているようなものより、むしろこうして「配置」されているほうが心をかき乱される。捨てた人間は無造作に捨てるのではなく、置くことで罪悪感を少しでも減らそうとしているのだろう。その小賢しさが透けて見えるようで、とても不快な気分になるのだ。
何故僕はあの時、あんな行動に出たのか、何度思い返してもよく分からない。とにかくその時僕は、塀の上に置かれたペットボトルへ手の平を向け、不快な気持ちを吐き出すように力を込めた。一瞬の閃光の後、視界から空のペットボトルは消えていた。混乱してもおかしくない状況ではあったが、その時の僕は何が起こったのか理解出来ていた。何より、実感があった。
僕の手からビームが出たのだ。 (つづく)